<ご報告>
第4回GSDM国際シンポジウム
「イノベーション、宇宙開発及び政策」
2月8日(水) 13:30~17:30
(東京大学 伊藤国際学術研究センター 伊藤謝恩ホール)

2017/03/07

共通セッション 宇宙分野のイノベーションとそのガバナンス
-イントロダクション 城山 英明 (GSDMプログラムコーディネーター・東京大学法学政治学
           研究科 教授・公共政策大学院 教授)  ◉発表資料
-基調講演1     原山 優子 (内閣府 総合科学技術・イノベーション会議 常勤議員)

◉発表資料

-基調講演2     ハンス イエルク ブリンガー(フラウンホーファー研究機構評議員)

◉発表資料

  
ご報告(共通セッション)
共通セッションでは、「宇宙におけるイノベーションとガバナンス」について、主旨説明と二つの基調講演が行われた。
 GSDMプログラム・コーディネーターである城山教授は、セッションの主題である「宇宙におけるイノベーションとガバナンス」の主旨を説明した。はじめに、社会的課題を克服するための技術開発とそれにともなう安全・安全保障・倫理面でのリスク管理や多様なアクター間の調整機能としてのガバナンスの関係を説明した。その上で、1950年代以降の日本における航空宇宙分野でのガバナンスの変遷に触れた。特に2008年の宇宙基本法を機に技術の研究開発からその利用へと焦点がシフトし、安全保障と宇宙産業活性化の二つが重要視されるようになった経緯を述べた。さらに、国内の宇宙産業の現状については、遅れを取っていることを指摘しつつも、安全保障を重視するフランスや産業利用を強調するドイツと比較して日本は両者のバランスをとる政策を行っていると評価した。
今後のガバナンス視点からの科学技術の課題として、安全保障や経済成長、環境、外交など様々な側面とのガバナンスのために、多様なステークホルダーの連携をどのように進めていくか、また民間アクターが次々に参入する状況下でどのような仕組みを作るのかが重要になることを強調した。
 原山氏は、科学・技術・イノベーション・政策の観点から航空宇宙についてさらに踏み込んだ議論を行った。宇宙産業の本質を変遷と捉え、常に前進していく宇宙技術のイノベーションには、研究者・エンジニア・企業などを含む多様なアクター間での双方向的なアプローチが重要であることを強調した。特に経済のあり方もビッグデータに依存した無形なものになるとともに、宇宙産業への民間参入が進んでいる現状においては、特定の分野に焦点を当てるのではなく、科学や技術とイノベーションの連鎖を意識しつつ宇宙産業の展望を考えていく必要性があり、今後さらなる技術革新と国際協力が必要であることを述べた。
 Hans-Jörg Bullinger氏は現代のイノベーションが持つ特徴と課題について述べた。まずイノベーションは、資金をもとにした研究をベースに行われ、最終的に社会にその利益が還元されるサイクルの中にある。イノベーションを起こすために国は最適な資金分配を考える必要があり、またその資金分配のもとで行われた研究に関して、イノベーションを通じて社会に利益をもたらす仕組みをどのように組織したのかを国民に対して答える義務があることを指摘した。その上で、現代ではすべての知識や情報は誰にでもアクセスが可能であり、資金源の多様化によって科学が民主化している状況下で、知識欲を持つ民間人が研究開発に貢献する可能性さえあることを前提として、どのような政策をとるべきかを考えることが必要であると問題提起した。そして、官と民、安定と変化の両方の側面を兼ね備えた組織を作ること、技術を素早く見直す能力とイノベーションを可能にする学際的な組織構造を持つこと、そのために分野間の敷居をなくすこと、固定概念にとらわれず技術的機会と潜在的必要性をとらえ、発明を生み出す技術と環境を作り出せる「innovation manager」を持つことが必要であると述べた。こうした課題を踏まえると、イノベーションは一朝一夕に生まれるものではなく、信頼に基づく組織作りと、文化・共創こそが必要であると結論づけた。
  
  
  

セッション1 宇宙産業における技術革新とビジネスの潮流

◉司会(GSDMプログラム生):前半 岸野 美奈

【モデレーター】
   -光石 衛(GSDMプログラムコーディネーター代理・東京大学大学院工
        学系研究科 教授)
【パネリスト】
   -高田 修三(内閣府 宇宙開発戦略推進事務局長)  ◉発表資料
   -岩渕 泰晶(JAXA研究開発部門 システム技術ユニット プロジェクトコストマネジメント
         チームリーダー)  ◉発表資料
   -中村 友哉(株式会社アクセルスペース 代表取締役)
   -クリストファー ブラッカビー(NASA アジア担当代表)  ◉発表資料
   -ムクンド ラオ(国家高等研究所(NIAS)助教授)      ◉発表資料
   -GSDM プログラム生                   ◉発表資料
    ブダディッド パイン(工学系研究科電気系工学専攻 D2)
    ジュリオ コラル(工学系研究科航空宇宙工学専攻 M2)
    小林 芳成(工学系研究科航空宇宙工学専攻 D2)
  
  
  
ご報告(セッション1)
はじめに
「宇宙分野のイノベーションとそのガバナンス」を取り上げた共通セッションに続き、セッション1ではインド、日本、米国に焦点を当て、「宇宙産業における技術革新とビジネスの潮流」をテーマに議論した。モデレーターを務める光石衛教授がまず宇宙産業における「技術とビジネスイノベーションの世界的潮流」についてスピーチを行った。
パネル発表セッションの報告
セッション1は、学生パネリストたちが行う「航空宇宙におけるイノベーションの潮流:今後の展望と課題」をテーマとする短い発表から始まった。
ブダディッド・パイン氏「衛星の小型化によるインパクト」についての情報を共有した。その中で、将来的な宇宙ごみ清掃に関する国際的な規制枠組みの必要性を明らかにした。また、政府、宇宙機関、大学、民間企業など幅広いステークホルダーの間で効率的な国際協力が必要であることや、衛星データの共有と合成開口レーダー画像システムの潜在的使用を可能にして災害危機管理能力を高めることを目的に、現行の厳格な規制を緩和することについても説明した。
ジュリオ・コラル氏「推進工学の潮流とコスト削減戦略」について発表した。深宇宙探査の推進システムにおけるロケットの再利用可能性とデルタVニーズの重要性に焦点を当てた。
小林芳成氏「ニュースペース:航空宇宙産業の明確な転換」について発表した。Google X-PrizeやNASAの商業軌道輸送サービス(COTS)の契約が、いかにテクノロジープッシュをデマンドプルに変え、それによって宇宙産業の研究開発(R&D)に弾みがつき、波及効果が広がり、世界経済に利益がもたらされるかを明らかにした。また、開発コストが下がることで、発展途上国が宇宙技術のR&Dを利用しやすくなってきていることや、これに関連したクラウドファンディングの将来性についても指摘があった。
学生の発表に続いて、第一線のゲストパネリストによる発表が行われた。
はじめに高田修三氏「宇宙産業のイノベーションに果たす日本政府の役割」について発表した。同氏は、日本市場が主に政府部門のデマンドプルを基本としていることから、宇宙産業のパラダイムシフトという背景の中で宇宙利用のニーズを検討することが重要との見解を示した。その背景とはニュースペース分野への企業の参入であり、そこでは焦点は高額で大規模な衛星ミッションから、リアルタイムの地球観測やワンウェブ・グローバル・コミュニケーション・ネットワークという新たな可能性のもと、安価かつ小規模な衛星コンステレーションに移っているという。また、4機体制での準天頂衛星システム(QZSS 4)についても言及があった。準天頂衛星システムは日本政府主導の取り組みで、静止軌道(GEO)1機と準天頂軌道(QZO)3機が長期的に宇宙から日本を監視する。運用開始は2018年を予定している。
東京大学の同窓生でもある中村友哉氏「日本の宇宙産業における起業文化」について洞察に満ちた発表を行った。まず2008年に設立したアクセルスペース社の起業について詳細を説明し、次いでニュースペース分野が現在の宇宙産業にもたらした大きな変革について取り上げた。現在、小型衛星の開発に要する時間は従来の大型衛星の5分の1、コストは100分の1で済むという。同氏は宇宙関連企業の立ち上げに必要となる資金調達の重要性についても述べた。アクセルスペース社はシリーズAで日本の大手企業から19億ドル(2015年11月現在)を調達している。続いて同社が構築中の50機の衛星からなる地球観測網Axelglobeについて説明があった。このプロジェクトでは防災・減災、森林管理、エリアマーケティング、石油不足などの経済動向の監視にデータを応用する。2017年にまず3機の衛星を打ち上げ、2022年までに50機体制を完成させる予定である。このほか、日本の宇宙産業における将来的な官民パートナーシップの重要性についても言及し、2018年に打ち上げが予定されている革新的衛星技術実証プロジェクトについて紹介した。これはアクセルスペース社が政府機関の契約相手先として初めて宇宙航空研究開発機構(JAXA)と共同で開発中のプロジェクトである。
ムクンド・ラオ博士「インドの宇宙分野に関する今後の技術革新とビジネスイノベーション」と題して発表を行い、宇宙分野やグローバル宇宙市場へのアクセスに対するインドでの需要の高まりについて述べた。インドの宇宙産業はこの10年間に目覚ましい進歩を見せており、それを象徴するのが2013年の火星探査計画(マンガルヤーン:火星の乗り物)の成功である。インド宇宙研究機関は、その信頼性が高く経済的な打ち上げシステム(どこよりも安い費用)によって世界各国との契約を増やしている。同氏はインド成功の要因として1970年代からみられる「インドの宇宙文化」に言及した上で、これからのニュースペース時代には、今後の宇宙技術とその応用に関するR&Dを大きく進展させる長期的な国家宇宙政策とともに、民間企業・国家宇宙機関・学術界の三者からなるインドの国家宇宙エコシステムが必要になると述べた。また、国家高等研究所と東京大学の間で進行中の共同研究にも触れ、日本とインド間の今後のスペース・コラボレーションについて論じた。
クリストファー・ブラッカビー氏「リモートセンシングに関する国際協力の課題と今後の機会」について発表した。NASAは、持続可能な開発目標の支援として122の国・2つの国際組織と698にのぼる国際協定を締結して国際協力を推進している。同氏は、衛星の開発・打ち上げ・地上局の利用、データの共有に関する二国間協力、多国間協力メカニズム(国際災害チャーター、センチネルアジア、地球観測に関する政府間会合、地球観測衛星委員会など)、国際協力と一般社会への働きかけを重視した外交努力が重要との見解を示した。また、宇宙産業における国際協力の強化を阻むものとして、国家安全保障上の懸念事項、データ配信に係る規則の世界的枠組みの欠如、一般社会の認識不足を挙げた。
セッション1の最後は、岩渕泰晶氏「今後の宇宙ミッションのコスト削減戦略」について発表を行った。まず、費用負担が極めて大きい宇宙探査機とその機器類の開発手順の特徴について概要を説明した。次に、日本政府と日本企業にみられるリスク忌避の体質を取り上げ、そのことが宇宙産業に参入する新興企業に必要なベンチャーキャピタルの不足をもたらしていると述べた。また、ニュースペース時代において日本は、NASAやESA(欧州宇宙機関)に倣って、自ら中小企業技術革新研究プログラムを実施して現行の政策フレームワークを改革し、競争が開発コストの削減につながることからも、宇宙産業の競争力向上のために参入企業を増やす必要があると述べた。
オープンディスカッションとディベートセッションの報告
発表セッションに続いて、オープンディスカッションとディベートが行われた。モデレーターを光石教授が務め、ゲストパネリストと学生が「ニュー・スペース時代の日本、米国、インドに期待する政策転換と規制改革」をテーマに討論した。
高田氏岩渕氏から、日本の政策転換は時間を要するものの、最近では政府内で認識が高まっていることや、改革がゆっくりではあるが着実に進行しつつあるとの意見がでた。中村氏がそれに加えて、アクセルスペース社のような日本の宇宙関連の新興企業が成功すると、周囲を勇気づけることとなり、リスク忌避の姿勢から徐々に脱却していくことになると述べた。JAXAとアクセルスペース社の連携に見られる官民パートナーシップは、日本政府が宇宙産業における歴史的な転換を後押ししていることの証である。
ブラッカビー氏は、小型衛星が増加していることを受け、NASAには地球低軌道衛星のコントロールから手を引き、数十億ドル規模の大型衛星プロジェクトを伴う静止軌道衛星のみに注力する考えがあると述べた。コラル氏が、NASAがコントロールから手を引くことによって国家安全保障の弱体化を招くおそれがないか質問したのに対し、ブラッカビー氏は、マスコミがよく誤解するところだが、コントロールから手を引くとは規制を撤廃するということではなく、それどころか1990年代に定めた規則や規制を改正することを意味し、国家の安全保障に悪影響を及ぼすことなく、今のニーズに従ってそれらを改正するものだと答えた。高田氏がこれに付け加えて、技術規制(レーダー画像解析度の取得や宇宙機器に関する制限など)の観点では、日本政府は厳格な武器国際取引に関する規則(ITAR)を実施している米国に比べ、規制が緩いと述べた。
ニュー・スペース時代のコスト削減戦略に関してラオ博士は、インドがすでに素晴らしい成果を挙げ、他国と比較してコスト効率が著しく高いことを踏まえ、一段のコスト削減はあまり現実的ではないとの見解を示した。高田氏ブラッカビー氏は、これまでに大幅なコスト削減が行われてきたものの、この業界でよく言われる「宇宙産業で一儲けしたいのなら、まず大富豪になることだ」というジョークはいまだ健在という点で意見が一致した。中村氏は日本の宇宙ミッションのコスト削減について、政府が宇宙産業への新規参入を促し、競争力が高まれば可能との明るい見通しを示した。一方、パイン氏は、大学・宇宙機関・宇宙産業のパートナーシップを推進すれば、インドを含め各国の宇宙ミッションの一層のコスト削減が可能であると述べた。また、学部生や大学院生は優れた資源でありながら十分に活用されておらず、宇宙産業のR&Dを促進する上で効率的かつ経済的な活用が可能であるとの見解を示した。その根拠として、大学院生は将来の進路に備えて自分の履歴書を説得力あるものにするために画期的な研究で優れた成果を挙げたいと考えていること、そのためには航空宇宙分野のR&Dに無報酬で貢献することも厭わないことを挙げ、ゆえにコストの大幅削減につながると述べた。ラオ博士はこの提言に賛同した上で、インドの場合、工学や自然科学の分野は特に理論的知識の習得に過度に力を入れ、実践的な研究をあまり重視しない傾向があるため、大学の教育システムを改革する必要があると付け加えた。以上をもってセッション1は終了した。
おわりに
本シンポジウムは大成功のうちに幕を閉じた。航空宇宙工学とシステムイノベーション分野の学生にとっては、宇宙産業や政府部門の専門家と交流し、自分の専門研究以外で現在起きている課題について認識を深める素晴らしい場となった。また、第一線のゲストパネリストの方々にとっても、既存のビジネスや政策に対する学生の考え方や懸念事項を知る良い機会となった。

  
セッション2 技術イノベーションと政策の相互作用

◉司会(GSDMプログラム生):後半 柴田 莉沙

【モデレーター】
   -城山 英明
【パネリスト】
   -中須賀 真一(東京大学大学院工学系研究科 教授)
   -原山 優子
   -ハンス イエルク ブリンガー        ◉発表資料
   -バヴィヤ ラル(防衛分析研究所 研究員)    ◉発表資料
   -浜辺 哲也(株式会社産業革新機構 専務取締役) ◉発表資料
   -GSDM プログラム生             ◉発表資料
    マークアンドレ シャビマクドナルド(工学系研究科システム創成学専攻 D2)
    カリティケヤン ガウタム(工学系研究科航空宇宙工学専攻 D2)
    カンタン ヴェルスピレン(工学系研究科航空宇宙工学専攻 M2)
  
ご報告(セッション2)
セッション2では、大学の役割や産業発展の問題、産学官の理想的な協力体制などを含めてイノベーションと政策の相互作用について議論した。
 まず、GSDM学生であるGouthamさんとQuentinさんより問題が提起された。彼らははじめに、従来は基礎研究から開発、商業化、販売までが一つのパスしか通らず、かつ限られたセクターのみが関与する「クローズドイノベーションモデル」であったが、現在は複数のセクターが相互に作用し、他分野のライセンスや特許なども絡んだ複雑なパスを持つ「オープンイノベーションモデル」に移行してきているという流れを述べた。その上で、世界で最も優れたイノベーション政策の事例とその理由について、Bullinger氏とLal氏に問いかけた。
 Bullinger氏は欧州の観点から、科学者のみならず産業や経済及びすべての人々が国のイノベーション政策に参画する必要があることを述べた。そして、国のイノベーション政策を考える上で戦略が必要であるとし、5つの柱を持つハイテク戦略を立て、リソースを効率的に集約してきたドイツの事例を紹介した。5つの柱とは、重要な分野に優先順位をつけること、資源を統合して研究と産業のネットワークを促進すること、産業界におけるイノベーションの活力を強化すること、イノベーションに適した環境を整えること、オープンな対話と参加を強化すること、である。
 次に、Lal氏はアメリカのイノベーション政策について自己の洞察を述べた。Lal氏は、アメリカでは軍事利用と科学の距離を保つために基礎研究にのみ注力する「クローズドイノベーションモデル」をとっていたが、冷戦時に宇宙技術の軍事利用への動きが急速に早まる中で、イノベーションの生成に関わりうる全ての要素に力を入れる「オープンイノベーションモデル」に変遷した経緯を述べた。またアメリカのイノベーションシステムのユニークな点として、NASAでは企業と大学の契約を簡易にする制度があることや、プライムと呼ばれる大きな私企業もイノベーションシステムの中で重要な役割を担っていることなどについて述べた。
 二人のパネリストの発表のあと、アメリカと欧州におけるイノベーションについてのいくつかの議論がなされた。はじめに、アメリカのリスクをとることを恐れないカウボーイの文化と類似の文化がドイツやフランスにあるのかを、モデレータがBullinger氏に尋ねたところ、Bullinger氏はそのような文化は欧州にはなく、アメリカのカウボーイの文化は研究開発の投資にはリスクがあることを認識させる点で有効であると評価した。
 またモデレータはLal氏に対して、アメリカのイノベーションシステムについて、他分野と比べて宇宙分野ではどのような特徴があるかについて意見を聞いた。Lal氏は、宇宙分野のイノベーションはたくさんのお金が回るだけでなく、宇宙が多くの人の空想を掻き立て、それによりイノベーションに対するポジテイブなフィードバックを得ることで発展してきていることが他の分野にはないユニークな点であると述べた。
 ここでセッションの後半に移り、GSDM学生であるChavy-MacdonaldさんとVerspierenさんより二つ目の質問が提示された。はじめに日本の現行のイノベーションシステムにおける消費者・産業・政策立案者について、また技術革新と政策の相互作用について述べられた。その上で、日本のイノベーションのため、とりわけ宇宙産業で必要なものは何なのかについて、原山氏・浜辺氏・中須賀氏に問いかけた。
 まず原山氏は、イノベーションの鍵は、科学者やエンジニアだけでなく起業家や市民を巻き込むことであると述べた。また現在は文部科学省のみならず他の省庁が共同で連携し、イノベーションを起こす主人公を政府から研究開発へと移行するパラダイムシフトを図ろうとしており、日本国内にイノベーションを生成するエコシステムを構築する必要があると述べた。
 次に浜辺氏は、彼の所属する産業革新機構で行われているオープンイノベーションを起こす取り組みについて説明した。産業革新機構は日本のピラミッド型産業構造の壁を破って人材やアイディアをつなげ合わせていく発想の元でできた官民ファンドで、長期的な社会インパクトを考慮してベンチャーなどにも多く投資している。彼はそのイノベーションに対する投資の課題として、投資を回収できない案件への対応、イノベーション促進の効率化を挙げた。
 最後に中須賀先生は、イノベーションが起こりやすいインフラづくりが必要であると述べ、現行の日本の宇宙開発の問題として、政府が市場の90%を占めておりリスクが大きい挑戦的なプロジェクトが誕生しにくいこと、宇宙利用がまだ十分に試みられていないことなどを挙げた。そしてこのような現状を打破する技術の一つとして超小型衛星を挙げ、国内に新たな宇宙のイノベーションを起こしうる可能性を述べた。
 ここでモデレータより3人のパネリストに、各ステークホルダーとしての立場からの意見を聞いた。
 原山氏は、宇宙という分野は他より特出した分野であることを述べ、特に近年は横断的に人工知能(AI)、モノのインターネット(IoT)、ビッグデータの活用が注目されており、それらと宇宙分野の融合により新たなイノベーションが生み出される可能性があることを述べた。現在はまだアイディアを模索している段階なので、ここで積極的に新鮮なアイディアを集めるスキームを取り入れる必要があると述べた。
 浜辺氏は、日本の現行システムの中ではリスクの大きい投資をするのが難しいため、アメリカのようなイノベーションのためのエコシステムやプラットフォームを作るのは難しいという現状を述べ、日本でもそのような仕組みを作っていく必要があり、そのためにアンテナを高くして将来的なニーズを察知し、それをビジネスに転換していくことが重要であると述べた。
 中須賀氏は、大学がイノベーションシステムの中で果たすべき役割として、技術の蓄積拠点としてベンチャーを発進させること、調査分析戦略の蓄積拠点として政府に戦略を提案すること、三つ目は海外連携の拠点として共同研究や様々な国の人材を集めて新しい事業を始められる柔軟な場を設けることを挙げた。
 Lal氏は日本の独自の取り組みとして宇宙デブリの除去活動を挙げ評価するとともに、一方でリモートセンシングのみならず通信やインターネットのブロードバンドなど宇宙開発の様々な応用を考えていくことも有効であると述べた。また、Bullinger氏は、大学の役割として、研究のみならず技術を民間転用できるような人材を育成することの重要性を強調した。