<ご報告>
デニ・ムクウェゲ医師講演会:「コンゴ東部における性暴力と紛争」
第2部:10月4日 9:40~12:10(東京大学本郷キャンパス 伊藤国際謝恩ホール)

2016/10/27
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  • 第2部:紛争下における性暴力と紛争鉱物の関係
     
    日時:2016年10月4日(火)9:40~12:40
    場所:東京大学 本郷キャンパス 伊藤謝恩ホール
     
    開会挨拶
    城山英明 東京大学公共政策大学院教授
     グローバル化が進む現代においては、われわれ市民の経済活動が、知らない間に遠い地域での社会的課題を引き起こしているという状況が数多く存在する。本日のテーマはそのような社会的課題のひとつである。紛争鉱物の利用とその採掘地域における人権侵害とのつながりを考えることは、2015年9月に国連が採択した「持続可能な開発目標(SDGs)」が掲げる12番目の目標「持続可能な消費と生産のパターン」通称「つくる責任・つかう責任」に関係する。
     コンゴ東部からムクウェゲ医師をお招きして、性暴力と紛争鉱物問題とのつながりを考える本日の講演会が、グローバル経済下での人権侵害という社会的課題についての問題意識を高め、われわれ市民には何ができるのか、取り組みを考えるきっかけになることを期待する。

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    主旨説明
    米川正子 立教大学特任准教授
     ムクウェゲ氏の招へいの動機の一つは、紛争鉱物と性的テロリズムの関係性に関する認知度を高めることである。また、もう一つの動機として、今年でコンゴ紛争が勃発してから20周年が経ったために、コンゴの紛争について振り返る機会をつくりたかったことである。1994年に起きた隣国ルワンダのジェノサイドを知っている日本人は多数いる。ルワンダのジェノサイドがコンゴに飛び火し、そして1996年にルワンダ軍がコンゴ東部に侵攻した。コンゴの紛争の死者数はこの20年間で600万人にのぼり、この数は第二次世界大戦後の世界において一地域の犠牲者としては最大規模である。それにもかかわらず、コンゴの紛争はあまり知られていない。その背景には人権とビジネス、つまり経済的な理由が関係しており、それは我々の日常生活と無関係ではない。それについて十分に議論する必要がある。

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    基調講演 「コンゴ東部における性暴力と紛争鉱物の関係」
    デニ・ムクウェゲ医師
     鉱物資源は、国の開発に貢献するはずが、貧困や暴力を生み出す結果となっている。特に私たちの国であるコンゴ東部でもそのような問題が起きている。グローバル経済が天然資源を必要としているが、それらは貧しい国にある。しかし、開発する側の倫理が欠けている。結果として何十年にわたり血が流れている。今回は性暴力の経済的な理由と結果について考えたい。
     鉱物資源の開発と性暴力は複雑な関係がある。タンタルは世界の埋蔵量の8割をコンゴが有しているとも言われる。先進的技術を使う産業では、コンデンサや携帯電話の材料としてタンタルが使われている。また熱に強く、ロケットやミサイルにも使われている。このタンタルが女性たちに苦しみを与えている。
     コンゴ紛争は、公式には2002年に平和合意がなされた。われわれは希望を持っていたが紛争「終結」後も武装勢力の活動はやまず、組織的な略奪が継続的に行われている。コンゴは法治国家として十分に機能していないため、規制もなく最低賃金も存在しない。結果的に、企業は鉱山を安く開発できることとなる。脆弱な国家から資源を仕入れることはコストダウンにつながるのである。悪意または無知により、サプライチェーンの端で国民が暴力に継続的にさらされている。
     暴力を生む鉱物開発はシステマティックに性暴力と関係している。性暴力は性的な欲求から来ているわけではなく、性的なテロである。被害者に大きなインパクトを与えるための支配の手段の一つとして性暴力は使われている。命を奪うジェノサイドという言葉があるが、性器を奪うという意味でもジノサイドという言葉をあてることができる。
     サハロフ賞受賞の際のスピーチで私は、「結果を解決するのではなく、原因を解決する必要がある」と述べた。違法な開発と暴力の関係を断つ、武装勢力の資金源の関係を断つ、人権侵害を解決する、という3つを目的とする法整備を呼びかけた。紛争鉱物問題の解決には、トレーサビリティの導入などの、サプライチェーンの適正化が必要である。一部の多国籍企業は経済活動の自由を奪われるというが、そういう企業は倫理が欠けている。また消費者は、商品にどのようなものが使われ、どのようなところからきているのかに対して意識的になる必要がある。
     今回初めて来日し、日本の文化に少し触れたが、自分の利益を守るだけではなく、他の人の利益をも守る「利他」という言葉を学んだ。人類がひとつなら共に立ち上がり、人間性の豊かな社会を実現したい。

    ※講演中、一人のコンゴ人青年が壇上に上がり、自己主張を行うハプニングがあった。それに対して医師は、「国民の一人としても申し訳なく思っている。若者たちもフラストレーションを感じており、その中での主張だったと思う」と述べた。

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    コメント
    吉永宏明 アドバンストマテリアルジャパン営業部長
     社会問題について議論する機会は企業の者として貴重な機会であると思っている。私の会社では主にレアメタルの調達を様々な国から行っている。レアメタルは産業のアキレス腱と呼ばれ、先端技術では少量でも高機能を実現するために必要不可欠である。紛争鉱物対策については、2010年に制定されたアメリカのドッド・フランク法1502条に則ったトレーサビリティを行っている。1つ目は、武装勢力がいない地域に監視要員を派遣し、鉱石をタグ付けして鉱山から製錬/精錬所までのトレーサビリティを確保している。2つ目は、アメリカが推奨する方法で、輸出国政府の原産地証明書等の確認を行い、コンフリクト・フリー製錬/精錬所(CFS)監査の承認を得た製錬/精錬所と取引を行っている。

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    質疑応答
     質疑応答では活発かつ忌憚のない議論が行われた。一部を以下に記す。
     質問1:アメリカとEUの規制は武装勢力対策の面で効果が出ているのか。また武装勢力や国軍が行っている暴力を止めるための安保理の決議は実際に効果が出ているのか。
     ムクウェゲ医師:「規制の実行性があるかどうかは問題である。資源の消費をやめればいい問題ではない。鉱石輸出は現地経済にとって重要である。現地の鉱山労働者の組合をつくり、仲介者である軍を通さず取引を行えるようにすることで、労働者の所得の改善に繋がる。日本も規制の導入をしてほしい。
     質問者2:講演での医師の指摘は、女性の権利についての今の日本社会の状況を鑑みても意味のある指摘であると思う。日本の法規制では、企業の責任は明記されていない。企業の社会的責任(CSR)にジェンダーの問題も反映されるべきであると思うが先生はどう考えるか。性暴力の背景に自分の血を入れることによる支配というのもあるが、性器を傷つけることは人口をコントロールし、少数で利益を享受するために行われているのか。
     ムクウェゲ医師:ご指摘の通り、武装勢力には、自分の血を地域コミュニティに入れることにより、つながりを破壊し支配を強化しようという意図もある。男女平等についてはコンゴにも法律は存在するがその実効性が問題である。
     質問者3:国軍も紛争鉱物のビジネスに関わっていると聞くが、武装勢力の問題を解決すれば性暴力を止められるかがよく理解できない。
     質問者4:コンゴの武装勢力はビジネスをしているように感じる。紛争鉱物が武装勢力の活動を助長しているというより、鉱物資源を得るために紛争を継続しているように思う。
     ムクウェゲ医師:武装勢力も国軍も住民を守るというよりビジネスマンになっている。多国籍企業と国軍が癒着しているのも問題で、製錬所が国外にあるためにトレーサビリティにも限界がある。

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    記念品贈呈
    閉会に際して、ムクウェゲ医師の招聘プロジェクトに尽力した学生たちより、ムクウェゲ医師への花束と記念品の贈呈が行われた。

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    (報告者:東京大学工学系研究科 D2 増田明之)