<ご報告>
第47回GSDMプラットフォームセミナー,第80回公共政策セミナー
「グローバルエネルギーの潮流」2月17日(火) 14:20~16:15
(東京大学本郷キャンパス 伊藤国際学術研究センター伊藤謝恩ホール)

2015/03/06
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2015年2月17日(火)、公共政策大学院長城山英明教授の開会挨拶に続き、ファティ・ビロール博士(国際エネルギー機関(IEA)首席エコノミスト)による基調講演が行われた。基調講演後は、専門家によるパネル・デイスカッションやフロアとの質疑応答が行われた。基調講演の概要は以下のとおり。

1.現エネルギー情勢におけるグローバルな課題
現在のエネルギー情勢においては、エネルギー安全保障及び気候変動が重要なグローバル課題である。エネルギー安全保障に関しては、非OPEC産油国や米国での石油生産量は増加しているものの依然として中東が最大の産油国であることから、中東の重要性は極めて高いにも関わらず、その不安定な政治経済情勢に因り石油増産に向けた投資が行われていないという点が大きな課題である。また、気候変動に関しては、現在のエネルギートレンドを踏まえると世界の気温は3.6度上昇すると予測されているが、これは、科学界から2度以上の気温上昇は現状のライフスタイルを大きく変えることになると警鐘が鳴らされていることに鑑みると深刻な課題であると言える。二酸化炭素総排出量の約3分の2はエネルギー部門起源であることから、気候変動の課題に対してエネルギー部門は解決策を提示する必要があると考える。

2.域別エネルギー需要予測
「World Energy Outlook 2014」によると、2040年までの地域別エネルギー需要予測は、OECD加盟国は横ばい、中国は増加するものの減速傾向、新興国は上昇傾向とされている。中国が減速傾向となる要因は、中国政府によるエネルギー効率化政策の導入、中国経済の脱重工業化の傾向、並びに中国人口構造の変化があると考えている。今後は、インドやインドネシア等新興国のエネルギー需要の伸びにも注視していく必要がある。

3.石油市場
世界の石油需要は、今後20年間で一日あたり1,400万バレル伸びると言われている。かかる需要増に対応するためには、米国、カナダ、ブラジルでの増産に加え、中東でも2020年までに増産を実現する必要がある。そのためには、今から中東への投資を行う必要があるにも関わらず、不安定な政治情勢等のために十分な投資がなされていない現状は危惧すべきものであり、石油の安全保障は引き続き重要な課題である。
石油価格については、現在歴史的な原油安を記録している。これは、中国の低成長及び日本や欧州の経済減速により世界の石油需要の伸びが軟調である一方、非OPEC産油国の石油生産量が過去30年間で最大であったことから市場における石油供給量が需要を大幅に上回ったことが背景にある。原油安により、石油産業ではエンジニア労働者の解雇や投資計画の縮小が行われていることから今後石油生産は下降トレンドになること、また、デイーゼルガソリン価格が現状割安になっていることから今後は需要増が見込まれることを踏まえると、石油価格は遅くとも年末までには上昇すると予測できる。石油企業による投資については、既に17%の落ち込みが見られ、今後の石油生産量への影響が懸念される。

4.天然ガス
全世界的に大規模なLNG開発プロジェクトが進められており、今後市場におけるLNG供給量は2倍程度になると予測されている。また、非産油国がLNGの輸出を開始するとも言われている。これは、ガスの安全保障の観点からは歓迎すべきことであり、今後のガス市場においては輸入国と輸出国間の対話を深め、よりよい市場制度設計を進めていくことが重要となる。

5.電力
OECD加盟国を中心として発電所設備の老朽化が多く見られる。全世界で約6,000GWの電力が発電されているが、その電力を賄っている既存発電設備のうち約4割につき今後20年間で入れ替えの必要が出てくる。再生可能エネルギーや天然ガスも含めた電力ミックスを考えるに際し、如何なるタイミングで老朽化した既存発電設備のリプレイスを行うかも重要な視点である。

6.原子力
「World Energy Outlook 2014」によると、2040年までの地域別原子力発電能力は、EUと日本については大幅減、米国は約17GW増加、ロシアは約20GW増加、インドは約35GW増加、中国については約130GW増加と予測されている。このように、今後の原子力発電量の半分以上が中国によって賄われることは、中国がOECD加盟国に対して技術的優位性を確保し原子力産業を牽引するというシナリオに帰結することもあり得る状況であると言える。そのため、原子力については、エネルギー安全保障は勿論、より幅広い文脈から議論を行うべきであると考える。また、原子力政策については、原子力設備廃炉や使用済核燃料の問題などがあるが、これらは各国政府が主体的に行うべき政策である。

7.COP21
前述のとおり、科学者は2度以上の気温上昇があると現状のライフスタイルを維持することは困難であると警鐘を鳴らしている。気温上昇を2度未満におさめるための二酸化炭素総排出量を試算すると、1900年から2012年の間に当該総量の半分を既に排出済であり、2012年から2040年の間に残り半分を排出してしまう見通し。かかる状況を阻止するためには、低炭素エネルギー技術への投資を増加させることが重要となる。現状、低炭素エネルギー技術への投資は0.5兆ドル程度であるが、この4倍の投資が必要となると見込んでいる。2015年12月にパリで開催予定のCOP21では、投資家に対し本技術への投資にはリターンが見込めるということを国際的合意のもと示すことが重要となる。

8.日本への提言
現在の日本は、より多様で安全かつ持続可能なエネルギーミックスを実行することが求められており、その決断内容は日本のみならず世界にも影響を与える重要なものであると考える。
再生可能エネルギーについては、経済とのバランスを踏まえ導入を進めることが重要となる。原子力については、IEAとして、New Policy Scenario(NPS)とLow Nuclear Case(LNC)の比較を紹介したい。すなわち、NPSの場合、日本の電源構成における原子力シェアは2040年に21%となる見通しでありバランスのとれたエネルギーミックスを実現することができることに対し、仮に日本がLNCを採った場合、エネルギー安全保障の脆弱性が高まるだけでなく、二酸化炭素排出量の増加、電力価格の高騰、貿易収支の低下を招くことが予測される。そのため、最終的には日本政府の判断であるが、IEAとしては、LNCを日本政府が採った場合、多くの懸念点があると考えられることから、原子力の寄与なくしてエネルギーの安全保障を確保することは難しいと考えることをお伝えしたい。

以上の基調講演に続き、芳川恒志政策ビジョン研究センター特任教授モデレーターのもと、パネル・デイスカッションが行われた。田中伸男前IEA事務局長からは、日本の電力システムは福島原発事故以来危機的状況であるが、原発再稼働と再生可能エネルギー拡大で多様かつ持続可能性を実現できる旨、コメントがなされた。また、政策ビジョン研究センターセンター長坂田一郎教授からは、東京大学が提供できる技術、公共政策等様々な知識をもって今後エネルギーへ貢献すべく知を統合する仕組みの確立及び人材育成を進めたい旨述べられた。続いて、木原晋一経済産業省資源エネルギー庁国際課長からは、エネルギー基本計画3E+安全(S)のコンセプトのもと、全てのエネルギーをバランスのとれたかたちで活用することを目指し具体的なエネルギーミックス政策について議論中であることが紹介された。

その後、フロアとの質疑応答がなされ、本講演は閉会となった。

 

写真撮影:山下加代