<ご報告>
第106回プラットフォームセミナー
「コンゴの紛争資源問題からとらえるビジネスと人権」シリーズセミナー
ジャン=クロード・カテンデ氏 特別講演「コンゴの民主化と人権問題」
2月19日(月) 18:00~20:30
(東京大学本郷キャンパス伊藤国際学術センター伊藤謝恩ホール)

2018/03/26
【日 時】 2018年2月19日(月)18:00~20:30
【会 場】 東京大学本郷キャンパス 伊藤国際学術研究センター 伊藤謝恩ホール
【登壇者】 講演:ジャン=クロード・カテンデ アフリカ人権擁護協会ASADHOコンゴ代表
コメント:勝俣誠 明治学院大学 名誉教授
開会挨拶:華井和代 東京大学公共政策大学院 特任助教
主旨説明:米川正子 立教大学 特定課題研究員/コンゴの性暴力と紛争を考える会 代表

 
【企画概要】
イニシアティブ「コンゴの紛争資源問題からとらえるビジネスと人権」ではこれまでに5回のセミナーを開催し、コンゴの資源産出地域における人権侵害の実態と、当該資源を利用する先進国の企業が果たすべき社会的責任の関係について考える機会を提供した。その成果として、本問題に携わる、企業、政府機関、国連機関、NGO、メディアの関係者との間で議論が深まり、「サプライチェーンの最上流にあたるコンゴで何が起きているのかを知りたい」という要望が寄せられるようになった。この要望に応えるべく、今回のセミナーでは、コンゴから人権NGOの代表を招き、コンゴの民主化と人権問題について話を聞いた。
近年のアフリカでは、ブルキナファソやジンバブエなどが民主政治への移行を実現する一方で、民主化実現への動きが暴力に発展している国もある。コンゴ民主共和国(コンゴ)は、後者の事例であり、2016年末に予定されていた大統領選挙が未だに実施されていない。国際社会は、民主化を求める現地の人々をどう支援すべきであろうか。本セミナーでは、NGOアフリカ人権擁護協会(ASADHO)のコンゴ代表であるジャン=クロード・カテンデ氏を講師として招聘し、紛争影響地域であるカサイ州やキブ州を含むコンゴ国内での人権状況に関する理解を深め、国連、MONUSCO(国連PKO)、援助国、国際NGOを含む国際機関が果たすべき役割を議論した。
 
【開催報告】
本セミナーには、研究機関、援助機関、政府機関、企業、メディア、一般市民から計90名が参加した。
 
開会挨拶:華井和代 東京大学公共政策大学院 特任助教

開会に際して主催者の華井助教は、これまでのセミナーの流れと紛争資源問題の概要を説明した。続いて、コンゴでは2016年から大統領選挙を巡って新たな暴力が発生し、2017年には3168人が犠牲になるなど深刻な状況であることを述べた。さらに、コンゴの現代史の概略を説明し、二度の紛争が起きた経緯、2016年末以降の大統領選挙延期による混乱について述べた。その上で、コンゴの紛争資源問題は政治問題、経済問題、社会問題が絡み合っていることを指摘した。  

 
 
主旨説明:米川正子 立教大学 特定課題研究員

コンゴの性暴力と紛争を考える会の代表である米川研究員は、本セミナーにおいて、コンゴで活動するカテンデ氏より現地の人権状況を聞き、私たちに何ができるかを議論したいと述べた。
続いて、コンゴにおいて2016年以降に民主化をめぐる問題が深刻化した背景について説明した。世界の民主主義をモニタリングしているFreedom Houseの報告書によると、世界各地で民主主義は危機にあり、世界における政治的権利と市民的自由がこの10年の間に最も低い水
 

準まで悪化していると警告されている。しかし、民主化のために選挙を実施すればいいという単純な問題ではない。戦争や難民問題と違って民主主義については可視化された明確な指標がないために、メディアが伝えづらいという問題もある。
そして2017年現在、アフリカの数カ国において国家元首が憲法を変更し、独裁を長期化させていることが、様々な専門家の間で問題視されていると指摘した。さらに、コンゴでは過去にモブツ大統領が32年間、現カビラ大統領が17年間政権を握っているが、年数の問題だけでなく、大統領が持っている資産の問題もあることを指摘した。
西アフリカでも独裁政権に対して市民が立ち上がっており、コンゴでも多くの市民がデモに参加している。しかし、暴力で鎮圧されることが多く、多くの市民が国外に難民として逃れている。コンゴの難民数は2016年のデータによると世界で6番目、2016年に新しく発生した国内避難民の数は世界トップである。
 
 
講演:ジャン=クロード・カテンデ アフリカ人権擁護協会ASADHO コンゴ代表

はじめにカテンデ氏は、コンゴというリスクのある国で弁護士となり、人権擁護活動を行うようになった経緯を述べた。子どもの頃に父親が違法に逮捕され、刑務所に会いに行った経験から、正義を実現できる人になりたいと思ったきっかけであった。1999年から弁護士として活動しているが、自由と正義を求めるために1996年からASADHOに参加している。国民の目に見える形で、当時のモブツ政権に対して民主主義と人権尊重を求めていたためである。  

ASADHOは複数の使命を掲げているが、第一義的には人権の向上と擁護である。人権に関する国家規範や国際基準を普及させる活動を行っている。権利を知るということは、市民が軍や警察から身を守る手段を提供することになる。ASADHOは市民に無料の法的支援を提供し、記者、学生、組合、宗教指導者などの能力強化活動や、国際条約批准に向けての啓発活動も行っている。この活動によって、2002年4月、コンゴは国際刑事裁判所(ICC)のローマ規定に批准した。
また、不処罰に対する闘いも行っている。ASADHOは様々な人権侵害行為に関する報告書を発表し、それによって裁判がはじめられた事例もある。カタンガ州では2004年に武装勢力の攻撃が発生した際、コンゴ軍を呼んだが、その報復として100人以上が殺害される事態が起きた。この事件に関するICCの裁判でも、ASADHOの報告書が使われた。ASADHOは当事者であると同時に、民主主義や人権に関してコンゴで起きていることの証言者でもある。
コンゴで政治状況と人権状況が悪化している原因は、民主主義の失敗にある。1960年にコンゴで独立運動が起きた際、初代大統領カサブブ、初代首相ルムンバなどを突き動かしていたのは、民主主義と国民の自由を求める気持であった。しかし、モブツが1965年のクーデタで権力を握り、32年の独裁政治を行った。この間、市民にはまったく自由がなかった。
1990年代には民主化を求める動きがあったが、モブツ大統領は民主化によって自身が政権のい続けることを目的としていて、市民に自由が与えられることがないままに民主化プロセスは失敗した。そのような環境の中で1996年に隣国の支援を受けたローラン・カビラ(L.カビラ)率いる反政府勢力AFDLがモブツ政権を倒し、L.カビラが大統領になった。AFDLはコンゴに民主主義をもたらすことを掲げていたが、実際には憲法を停止し、独裁政治を始めた。その後、1998年に再度の紛争が発生し、複数の武装勢力が発生してL.カビラ政権は国内を統一できなくなってしまった。2001年にはL.カビラ大統領が暗殺されたことを受けて息子のジョゼフ・カビラ(J.カビラ)が大統領の座についた。その後、和平合意が結ばれて暫定政権が発足し、憲法が採択された。2006年に大統領選挙が行われてJ.カビラが正式な大統領に選ばれ、2011年に2期目が始まった。2016年12月には任期が終わるはずだった。
コンゴの憲法では、大統領の任期は2期10年までと定められている。それにもかかわらず、J.カビラ大統領がいまだに政権の座に居続けている。コンゴ国民は大統領の退陣を求めて平和的なデモを行ったが、暴力的な弾圧によって多くの市民が殺されたり逮捕されたりした。ただ選挙を求めただけでコンゴ市民がコンゴ軍や警察に殺されてしまったのである。2016年9月には野党の本部が放火され、議員が殺害された。それによって野党の動員力が弱くなり、選挙の開催要求がさらにしにくくなった。
さらに、政権に近い人物の犯罪には処罰が行われないという問題もある。人権擁護家やデモを行った若者が殺害された事件においても、首謀者は裁判にかけられていない。2017年に国連の専門家二人がコンゴ国内で殺害された事件でも、ASADHOは独立性・透明性のある捜査を行ってほしいと要望したが、結局、実行犯の下級兵士のみが逮捕されて、殺害を指示したはずの司令官は罪に問われていない。
コンゴは資源に恵まれた国であるが、その豊かさがむしろ800万人以上のコンゴ人の死を招いた。コンゴ東部では鉱山の近くに反政府勢力が存在している。そこで不法な取引をして武器を手に入れている。国際社会は鉱物資源の流通経路を透明化するメカニズムを導入した。人権を守る形で採掘されているか、国に税金を払っているか、正規のルートで輸出されているかなどを確認するためのものである。しかし残念ながら、コンゴでは十分に機能していない。
コンゴ国内では、人権擁護家は大変厳しい状況で活動している。日々、死や投獄の危険に直面している。平和なのは眠っているときだけである。それでも重要なのは、民主主義が機能する国になるように、そして他国のように自由権が行使できる国になるように、コンゴ国民にとって正しいことを実現することである。
この状況から抜け出すために重要なことは、国際レベル、国家間レベルでコンゴに圧力をかけることである。コンゴの民主化は、国際社会からの働きかけなしには実現しえない。日本の市民社会のみなさんには、コンゴの市民社会に寄り添ってほしい。日本政府には、基本的人権を守るためにコンゴへの援助を使ってほしい。これからも在キンシャサ日本大使館と人権擁護団体のパートナーシップを強化し、国民への人権教育プログラムを行いたい。
 
 
コメント:勝俣誠 明治学院大学 名誉教授

勝俣教授は、コンゴの独立当時の混乱について振り返ったうえで、コンゴは大変豊かな資源と優秀な人材を抱く国であるにもかかわらず、大きな問題が残り続け、自国民が自分たちのためにその富を利用できないのはなぜか、コンゴを動かしているシステムとは何か、という疑問を提示した。コンゴの人を殺すように、また拷問するように指令を出している上の人は一体誰なのか。誰かわかっても、  

上に行けば行くほど罰せられないまま、闇の中に消えてしまっている。他方で、国際関係においては、その上の人同士が付き合っている。この60年間にコンゴで起きている犯罪について世界は知っているはずなのに、なぜ解決しないのだろうか。開発経済学では経済成長が重視される。ある国が経済成長していたら、その国の政府が少し悪いことをしていても、内政干渉になるからと目をつぶってもいいという見方があるが、それでいいのだろうか。我々は開発援助のあり方を見直すべきではないかと勝俣名誉教授は問いかけた。
そして最後に、コンゴの初代首相ルムンバが残した手紙の一節「いつの日か、歴史は審判を下すであろう。(中略)その歴史とは、植民地主義から解放された国々の中で教えられる歴史であろう」という言葉を引用し、コンゴが自国の歴史を描いていくことの重要性を指摘した。
 
 
質疑応答
会場から寄せられた主な質問とカテンデ氏の回答は以下の通りであった。
質問:カタンガの鉱山開発で有名なイスラエル出身の実業家Dan Gertlerが先日アメリカ政府によって制裁をかけられたが、その背景に何があるのかご存じでしょうか。
カテンデ氏の回答:Gertlerは汚職の問題で有罪になったが、アメリカによる制裁はカタンガの状況を変えるインパクトにはならない。なぜならコンゴの権力の中心に関わることではなく、今Gertlerの資産が凍結されても、カビラ大統領はそれ以上の額をGertlerにあげることができる。Gertlerはこれからもっと大きな契約を結ぶことになるだろう。カビラはGertlerを自分の結婚式に呼んだりしていて、二人は兄弟のような引き離せない関係にある。
 
質問:昨年、コンゴの独立記念日にムクウェゲ医師がコンゴの若者たちに真の独立や自由を呼びかけるメッセージを発表されましたが、ASADHOでは特に10代20代の若い人たちにどのような人権教育や啓蒙活動を行っていますか?
カテンデ氏の回答:ASADHOの協会内には人権に関する本を蔵書する図書室があり、学生が利用できる。教育プログラムも用意していて、憲法の主要な点をまとめたパンフレットを元に、地域の人々と憲法の知識について議論している。ほとんどの人が人権について知らないのが現状である。学校での教育も行っている。学校で生徒たちと性犯罪について話し合う教育活動もしている。被害に遭った際の対処を知っておくことは非常に重要である。
他に、市民活動を行う若者をサポートしたり、逮捕された際の対策についても教育している。ほとんどの若者がコンゴの司法について知らないため、逮捕されたら弁護士なしで警察や裁判官と話してはいけないこと、黙秘権もあるということを教えている。若者たちは国のシステムが変わるように闘っている。
 
質問:カテンデ氏は日本として何ができるとお考えでしょうか?
カテンデ氏の回答:私たち市民社会の活動を支えてもらったり、大学などでコンゴの状況を伝え、研究者たちにはコンゴで起きていることに興味を持ってほしい。また、学生さんがコンゴに来て現場を見てコンゴのことを私たちと一緒に話してほしい。そしてキンシャサの日本大使館を通じて市民に人権教育をしている団体を支援することができるのではないだろうか。また、経済制裁は貧しい人に悪影響が出ない様に慎重に行うべきである。一部のターゲットに絞って制裁を行うことが必要。直接国に支援金を出すのではなく、協会を支援するなど、賢い支援方法、制裁方法を考えなくてはいけない。
 
質問:どのような条件が整えば、コンゴで選挙が行われるでしょうか?
カテンデ氏の回答:日本はキンサシャの道路を作ったり、コンゴ政府を支援する援助プログラムを実施しているが、政府が人権尊重をしたら、または、コンゴ政府が独立選挙委員会の監査を受け入れるのであれば支援を行う、といった条件づけができるのではないか。また、コンゴの多くの学校に図書室がない。教育支援として、日本は図書室作りの支援ができるのではないか。
ASADHOのプログラムにはアメリカ、ベルギー、ドイツなど様々な国の大使館や国際機関がサポートしてくれている。日本からの支援にもぜひ期待したい。

 (報告書作成協力:村松智妃呂 国際基督教大学修士2年)