<ご報告>
第102回プラットフォームセミナー
「コンゴの紛争資源問題からとらえるビジネスと人権」シリーズセミナー
「コンゴの紛争資源問題をめぐる最新動向と展望」
12月11日(月)18:00~20:00
(東京大学本郷キャンパス国際学術研究棟SMBC Academia Hall)

2017/12/25
【日 時】 2017年12月11日(月)18:00~20:00 (開場17:30)
【会 場】 東京大学本郷キャンパス国際学術総合研究棟4階 SMBC Academia Hall
【登壇者】 ジャン=クロード・マスワナ 筑波大学 准教授
米川正子 立教大学 特定課題研究員
華井和代 東京大学公共政策大学院 特任助教
小島千晶 筑波大学 ビジネス科学研究科 修士2年
※司会:山本悠久 東京大学大学院 工学系研究科 修士2年(GSDM生)

 
【企画概要】
イニシアティブ「コンゴの紛争資源問題からとらえるビジネスと人権」ではこれまでに4回のセミナーを開催し、コンゴの紛争資源問題を事例として、資源産出地域における人権侵害の実態と、当該資源を利用する先進国の企業が果たすべき社会的責任の関係について考える機会を提供した。その成果として、本問題に携わる、企業、政府機関、国連機関、NGO、メディアの関係者との間で議論が深まり、「サプライチェーンの最上流にあたるコンゴで何が起きているのかを知りたい」という要望が寄せられるようになった。この要望に応えるべく、今回のセミナーでは、コンゴ出身の経済学者であるマスワナ准教授(筑波大学)、元UNHCRコンゴ東部ゴマ所長の米川研究員(立教大学)、企業で紛争鉱物調達調査に取り組む小島氏、コンゴの紛争資源問題を研究する華井助教(東京大学)が、コンゴにおける政治、経済、紛争、および紛争鉱物取引規制の効果をめぐる研究動向を報告し、来場者と意見交換を行った。
 
【開催報告】
本セミナーには、研究機関、援助機関、政府機関、企業、メディア、一般市民から62名が参加した。
 

主旨説明
 開会に際して主催者の華井助教は、これまでのセミナーの流れと紛争資源問題の概要を説明した。2003年にコンゴ紛争が公式には「終結」した後も東部の資源産出地域では紛争状況が継続し、武装勢力や軍が鉱物資源の違法採掘・取引から利益を得て住民に暴力を奮ってきた。2010年にはOECDとアメリカで紛争鉱物取引規制が制定されたが、その効果に対して賛否両論が提示されている。今回のセミナーでは、最近のコンゴの政治状況、紛争状況、武装勢力の動きを報告したうえで、本問題の解決のために日本にできることを考えたい、と述べた。
 

報告①「長期化するコンゴ紛争と和平プロセスの問題点」
   米川正子 立教大学 特定課題研究員
 米川研究員は、コンゴの紛争状況を説明するにあたって、紛争主体に紛争終結の意志があるという前提で国際社会が和平プロセスを進めていることに問題があると指摘した。コンゴ東部の主要な武装勢力は、1996年の第一次コンゴ紛争時から名称を変えつつ引き継がれており、和平と反乱を繰り返している。資源が関わる紛争においては、紛争の目的が必ずしも軍事的勝利ではないことがある。衝突しているはずの武装勢力同士が資源情報を共有していたり、国軍兵士と武装勢力兵士が癒着していることもある。また、紛争による敗者から勝者への資産の移転にも注目する必要がある、と指摘した。
 

報告②「コンゴにおける政治状況の最新動向」
   ジャン=クロード・マスワナ 筑波大学 准教授
 マスワナ准教授は、2016年12月に任期満了を迎えたジョゼフ・カビラ大統領が大統領選挙を延期し、平和的な抗議活動を暴力的に取り締まったことから、国内避難民、人権侵害、報道の自由の弾圧が広がっている現状を説明した。大統領一家はコンゴの鉱物、金融、流通、サービス業まで幅広いビジネスの経営に関与しており、問題の背景には経済的利権が存在する。2016年からはこれまでの紛争地域に加えて、カサイ州、カタンガ州での暴力が発生している。一方で国際社会がカビラ政権に対して以前ほどには選挙実施を強く求めなくなっていることも問題ではないかと指摘した。
 

報告③「紛争鉱物取引規制の効果をめぐる研究動向」
   華井和代 東京大学公共政策大学院 特任助教
 華井助教は、2010年に制定された紛争鉱物取引規制の成果として、アメリカの上場企業約1300社がサプライチェーン調査の結果を報告していること、コンゴ東部のスズ、タングステン、タンタル鉱山の7割からは武装勢力が撤退した一方、金鉱山はいまだに9割が紛争影響下にあることを説明した。また、2010年にコンゴ政府が紛争資源問題の発生地域3州からの鉱物輸送を6か月間停止したことで武装勢力が住民への略奪を増加させ、人権状況が悪化したこと、その後、国際価格が上昇しかつ密輸が横行し続ける金鉱山周辺に武装勢力が移動したことから、「ボイコット」という形が問題をむしろ悪化させる危険性を持つことを指摘した。さらに、2017年以降は規制の対象がコバルト鉱山での児童労働などの人権問題にも広がり始めていることを説明した。
 

報告④「紛争鉱物問題に対するCSRの役割」
   小島千晶 筑波大学 ビジネス科学研究科 修士2年
 小島氏は、企業の社会的責任(CSR)のゴールを「社会的課題への貢献」と「事業活動への貢献」によって分類する概念図を用いて、日系企業の紛争鉱物への対応を分析した。日系企業の対応は、社会貢献度が高い一方でステークホルダーを巻き込めていないために、事業活動への貢献度が低いことを示した。また、独自の意識調査をもとに、日本の消費者は紛争鉱物問題に対して倫理的責任を感じている一方で、認知度が低い段階にいることを指摘した。そのため、企業が消費者に対する啓蒙活動を行い、消費者がプレミアムを払っても良いと感じさせることで、紛争鉱物に対する取り組みを事業活動への貢献に結び付ける可能性を示唆した。
 

質疑応答
 来場者からは、「国際社会がカビラ大統領の退陣を強く求めない背景には、その方が国際社会の側にも利点があるからではないか」「消費者が払っても良いと思う『プレミアム』とは何か」「コンゴの鉱山はどう管理されるべきなのか」「本問題での日本の位置づけや法規制はどうなっているのか」「政治的、経済的、社会文化的なアプローチが必要な中で、マルチ・ステークホルダー・アプローチは有効か」「武装勢力との和平交渉の具体的な問題点はどこか」などの質問が活発に出された。
 マスワナ准教授は、カビラ大統領がイスラエルのビジネスマンを通じてのロビー活動を展開したことでアメリカ政府の態度が軟化したこと、日本の対アフリカ政策がアメリカからの影響を受けていることを指摘した。また、問題の全体像をコンゴ人自身でさえも明確に把握できていないこと、「社会文化的」と言われる問題の背景には政治経済が絡んでいることを説明した。
小島氏はプレミアムとは余分な価値に対して消費者が支払うお金のことであると説明し、華井助教は、革製品や衣料品ではすでに成功事例があり、消費者は途上国の人々の生活向上のために尽力した創業者の苦労など、「ストーリー」をプレミアムとして購入していると指摘した。
 また、華井助教は、鉱山を当該国政府が管理することには正当性があるが、現状では政府でさえ禁止している違法な「徴税」行為が国軍部隊によって行われ、集められた資金が国庫には入っていないことを説明した。また、マルチ・ステークホルダー・アプローチが理念としては有効であるとしても、それが現地において正しい手順で実施されなければ効果を発揮しないと指摘した。さらに、日本では紛争鉱物に関する法整備が行われていないが、企業がすでに対応を実施している現状でさらに法整備が必要かどうかは検討が必要であるとの考えを述べた。
 米川研究員は、解決策を検討する前に問題の本質的理解が必要であると指摘し、コンゴ政府と武装勢力が必ずしも対立関係になかったり、和平仲介者がかつての紛争当事者であったりするなど、紛争当事者間の馴れ合いに目を向ける必要があると指摘した。

華井助教は最後に、2016年度に本シリーズセミナーで公開した、コンゴ東部で医療に尽力するデニ・ムクウェゲ医師の活動を描いたドキュメンタリー映画『女を修理する男』の日本語字幕付きDVDの制作が進んでおり、大学等の授業で取り上げられる予定であること、一般市民への認知が広まると同時に議論をさらに深めていく必要があると述べた。

(報告書作成協力:大阪大学大学院国際公共政策研究科 修士2年 猪口絢子)