GSDMとは
「社会構想マネジメントを先導するグローバルリーダー養成プログラム(GSDM)」は、グローバル社会を牽引するトップリーダーを養成する文理統合型の学位プログラムで、東京大学の9研究科21専攻が参加しています。
文理をつなぐオールラウンド型人材を
GSDMプログラムコーディネーター
東京大学公共政策大学院教授 城山英明
リーディングプログラムの対象領域が広がり、次のステージへ
———東京大学で、このリーディングプログラム(※)が始まったきっかけはなんでしょうか。
城山:
このリーディングプログラムというのは、実は2年くらい前、2012年から始まっているんです。ですから東大の中でも、サステナビリティですとか、理工連携や数学の専門的分野などについてはすでに始まっていたんですね。
そもそもこのリーディングプログラムというのは、国の「国際的に通用するリーダー人材を増やそう」という目標のもとに文科省が声をかけ、京都大や大阪大、慶応大といった全国の大学が手を挙げて導入しているものなんです。もちろん、初年度から東京大学も参加してきましたが、当時は専門領域を絞ったものだったというわけです。
それが2014年からは新たに「オールラウンド型」といって、1つの専門領域だけでなく、あらゆる分野に幅広く関わることのできる国際的なリーダーを育てていく、そういったプログラムをやはり東大としても出していきたいというこということでスタートしたんです。
———これまで2年間続けてきたプログラムに、「オールラウンド型」が加わるということですね。
城山:
その通りです。東大だけでなく日本の大学全般についていえることですが、こういったリーディングプログラムというのは、理系中心になっているものがとても多いんです。ですからその偏りを是正するためにも、今回始めるオールラウンド型プログラムでは「半分文系・半分理系」ということを掲げています。私自身も政治学出身で文系なのですけれども「文系がちゃんと入るかたちでやろう」ということは、関わっている教員もスタッフも皆、意識してやっていますね。
スペシャリスト達が、チームワークを発揮すればもっと強くなれる
———リーダー人材の養成という点で、東京大学の強みと弱みはそれぞれなんでしょうか。
城山:
教員についても学生についてもいえることですが、個々の専門分野については東京大学はとてもレベルが高くて、特に経済学、法学、あるいは工学といった分野については、世界でもトップレベルの先端的な仕事をしているんだと思います。ところが残念なことにそれらがいままではバラバラだった。すばらしい個々の先生、個々の学生がいる中で、どうやってチームワークを持って社会の問題に実際に取り組んでいくのか、そこが極めて弱かったんだと思います。
では今後、どうやって異なる専門領域のエキスパートが手を取り合って、実際の社会の問題に取り組んでいけばよいのか———この点が弱いのではないか、と私たちは考えています。
———個々の領域ではすばらしい力を持ちながら、その連携が弱かったと。
城山:
そうです。そこで必要となってくるのが「オールラウンド型」というカテゴリーなんです。つまり、社会の問題というのはある特定の分野から「解いてください」といって起こってくるのではないわけですね。そうすると問題が起こるとそれに応じていろんなチームをつくって、それに対して答えを出していくという、そういうある種の柔軟さというものが必要になってきます。
ですから、違った分野の人とも連携できるチームワークといいますか、計画を立ててそれを動かしていく、プロジェクトマネジメント的な部分というのを今後補っていく必要がある。そこがまさにこのプログラムの目指すところなのかなというふうに思っています。
バックグラウンドの異なる学生らが、参加型授業で磨かれていく
———プログラムが始動して、手ごたえはありますか。
城山:
そうですね。オールラウンド型ということを裏返すと、極めて多様な人たちが関わっているということなわけですね。それは先生のほうもそうですし、学生のほうもそうなわけです。法学部だとか、経済学部の学生もいれば、医学系の学生、あるいは工学部の機械だとか、システム創成といわれるような分野の学生だとか、いろんな人たちがいます。
そういう意味でいうと、いろんな人たちがちゃんとコミュニケーションをして一緒にやるということの難しさももちろんありますけれども(笑)、それによる「えっ、こうだったのか!」みたいな驚きも日々あると思います。
———さまざまな分野から学生が集まるということで、工夫されている点は?
城山:
教授やスタッフの中でも、このプログラムをつくる過程でそのことについてはかなり話し合いました。やはりこのプログラムの大きなポイントは、学生たちがそういうまったく違う分野の人たちと共同作業をするということですね。授業の中でも単に講義を聴くんじゃなくて、演習形式といいますか、双方向型のもの、いろんな共同作業を一緒にやるみたいなことが多いわけですけれども、たとえば「Project Based Learning(プロジェクト・ベースト・ラーニング)」といって、学生たちがチームを組んで作業をする、そこに社会のいろんな実務者がゲストとしてやってきて「いま、こういう困ったことがあるんだ」というのを持ってくる、それで課題設定、問題解決のための実習をしてみる、そういうタイプの授業もよくやっています。
そうすると学生からは「いままで大学にいたけれども、こういうことはなかった」「はじめての体験だ」という感想がたくさん出てくるんです。そういう意味では、なにか新しいことを始められているのかな、という感触を得ています。
求められる「グローバル人材」の条件の変化
———「グローバル人材」についてお聞きします。20年前、30年前と比べて、国際的に活躍するために求められる資質に、変化はありますか。
城山:
そうですね、おそらく20年前、30年前ということであると、国際的なことというのは、ある一部の人がやっていた仕事だったんだと思うんですね。たとえば政府や国際機関の仕事にしても、企業の中にしても、国内の政策なり戦略を考えるという担当者がいて、それとは別に、国際部門についての専門家がいると。その2つがわかれていたんだと思うんです。
———先ほどの「文系・理系」と同じように、かつては組織内に「国内・海外」という壁や区分があったということですね。
城山:
そうともいえるかもしれませんね。かつてはごく一部の人が国際という役割を担っていたけれど、いまはそういう時代ではない。
おそらくあらゆる分野において、実務的な仕事なり研究なりをやっていこうと考えたら、国際的なネットワークをつくったり、それをマネジメントするということが必然的に発生する。それができないと、仕事が進まなくなってきていると思うんです。
そういう意味でいうと、たとえば私自身は政治学という分野が専門ですけれど、国際政治という特定の分野の人たちだけが国際化すればいいという話ではなくて、たとえば国内の福祉政策だとか地方分権だとか、きわめてドメスティックな案件についても実は同時進行で国際的にいろんなことが起こっているわけなんですよね。そういう、いままでは国内的な話だと思われていたことこそ国際的にやらなきゃいけなくなってきたというのが、おそらくここ10年、15年の大きな変化なのかなというふうに思います。
企業や国際機関、行政などにおける実務経験ゆたかな教授陣
———文理の枠、国内・海外の枠を超えて学べるのがこのプログラムの魅力なんですね。
それを実現するための、教授や講師の顔ぶれについてはいかがでしょう。
城山:
総合大学ですから、東大全体を見渡せば、個々の分野の優れた専門家が非常にたくさんいます。理科系、工学系、医学系、農学系、情報系といった領域はもちろんのこと、たとえば法学などの社会科学系をみても、医療に関わる医事法、安全に関する規制といったように、深い専門領域を研究している人たちがいる。そこで、大学全体から優れたスペシャリストを、いうなれば「分野別にセットでまるごとこのプログラムに連れてくる」ようなこともやっています(笑)。
———学生が多分野から集うのに対して、やはり教授陣も多分野からスペシャリストが集められているわけですね。
城山:
そうです。五十数名から成る教員の構成も、理科系と文科系でほぼ半数ずつです。オールラウンド型人材の育成を目指していますから、これをやるんだ、という特定のテーマが決まっているわけではありません。ですが、医療、エネルギー、航空・宇宙、そしてリスクマネジメントと、国際的な視点から取り組むのにふさわしい、4つの重点領域は設定しました。そして各分野について最前線でやっている方をお呼びしています。
また分野横断と同時に、もう1つは実務とのインタラクションというのが、たぶんこのプログラムの大きな特長なんですね。そういう意味では実務経験を持った方に数多く関わってもらっています。こういった先生方はべつに研究室にこもってやっているだけじゃなくて、文系、理系を問わず皆さん社会に出ていっていろんなかたちで発信をしたり、実務的にも貢献している多い。そういう方を巻き込んで成り立っているというのは、このリーディングプログラムの大きな強みの1つです。
———では、実務経験の豊富な講師陣から講義や演習を受けられるんですね。
城山:
はい。ただ、授業を担当する人間が、現役でいま企業や政府に勤めているというわけではありません。ここ公共政策大学院というのは専門職大学院といいまして、研究職ではなく実務に帰っていく人たちを教育するということで、実は教員のうち一定比率が実務経験者じゃじゃなきゃいけないんですね。
そういうところに、ある意味ですばらしい実務経験をした先生方を迎えている。エネルギー領域の田中伸男先生なんていうのは、まさにIEA(国際エネルギー機関)という国際機関のトップをやっていた方ですし、社会デザインの領域で教えていただく鈴木寛先生なんかもかつての通産省にいて、その後は政治の現場に関わって、ふたたび研究に戻ってこられたという方です。そういった方が実はおふたり以外にもいろんな分野にいらっしゃいますし、そういう経験豊富な人たちがいるというのは、われわれの1つの大きな強みだと思います。
どうして東京大学全体の中でも公共政策大学院という、文系の、かつ相対的にはきわめて規模の小さなところがこのプログラム全体のコーディネートをやっているのかというと、そういう実務とのつながりの強さというのが1つの理由なのかなと考えています。
問題を見つけて、考える———その過程を楽しめる人に来てほしい
———どんな学生に、このプログラムで学んでほしいと思っていますか。
城山:
それは、国際社会でやっていこうと思ったときに結局どういう能力が必要かということとも絡んでくるんだと思います。このプログラムの中でも問題解決力みたいな話はよく出るんですが、実はその問題を解決する以前に、問題を定義する力=「problem definition(プロブレム・ディフィニション)」というような言い方をするんですけれども、それがけっこう大事なんですね。
つまりいろんな人たちと話をして、なにが問題なのかって定義できる能力ってすごく大切で、そういう志向を持った人にぜひ来てもらいたいなというふうに思います。
そういう意味でいうと、誰かにいわれて、あるいは問題を出されてから答えを探すという受け身の姿勢ではなくて、なにか難しいテーマでもいいし、「これなんだろう?」というようなちょっとした疑問でもいいから、自分で問題を探して、見つけて、考えていく。その過程そのものを楽しめる人を、こちらからからも探したいと思っていますし、ぜひこのプログラムに来てもらいたいなという、そういう思いを強く持っています。
※リーディングプログラム:博士課程教育リーディングプログラム。東京大学では社会構想マネジメントを先導するグローバルリーダー養成プログラム(Global Leader Program for Social Design and Management: GSDM)として、9研究科21専攻が参加している。